真昼の三日月

IMGP6507.JPG

PENTAX K100D, Carl Zeiss Jena Pancolar 50mm

鳩子は思春期のころ、よく爪に白い三日月を浮かび上がらせていた。

 

生え際から覗いたその何ヵ月後かに爪の先に上がってきて、
それを切り落としたら、何か贈り物がもらえるというジンクスがあった。
鳩子はしゅっちゅうこの三日月があらわれていたので、きれいじゃないなあ、とため息をつきつつも、
そして、子供とはいえそんなジンクスを信じる年でもないのに。
これを切る頃にはどんなプレゼントを誰からもらえるのか、ちょっと期待していたようだ。

物としてのプレゼントというよりは、
男であれ女であれ
誰かがわたしに親しげな気持ちになっているかもしれない、
ということが、まだ折り目のきれいな制服を着た鳩子の心を、ウキウキとさせたものだ。

ピリッとするくらい寒い日の、青空にぽっかりと浮かぶ白い三日月。
音のない宇宙空間や、白い砂や小石だらけの衛星。
鳩子は、それはそういう衛星の1つだということを確かめるように空を見上げる。

どうしてだろう。
白い砂やククレーターのようなものを視界に認めると、鳩子は安心する。
直接触れたことはなくとも、遠くに見えるそれはいつもちゃんと実在している。
月にまつわるあやしげなジンクスなんかよりも、遥かに鳩子を安心させ、
そして、想像の世界へと羽ばたかせるのだ。

今の鳩子に、もう三日月は出ない。


※テキストはフィクションです。

 
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One Reply to “真昼の三日月”

  1. lobby

    もしかしてコレですか?例の月の写真。
    枝の写りが繊細で、色も穏やかな感じでキレイだと思います。
    自分の撮ったほうが稚拙に見えてしまいます(笑
    これ、Pancolarで撮られたんですね。
    こちらはシャープな写りをしてる感じがしますね。

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