1500

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by using PENTAX K100D, Carl Zeiss Jena Pancolar

彼女は、おれの同期と会ってたんだよ。
おれは嘘だけはいやなんだよ。
彼女はもうしない って言ってるけど、どうしたら信用できるんだろう。
どうしたら、他の男と会わなくなるんだろうな。

わたしの大事な男友達が泣きついてきたことがあった。
わたしは電話の向こうの、苦しそうだけれども、明らかな他人事に少し呆れながら、
結婚でもすれば? と言った。


若かったわたしは、「結婚」という言葉に多くを込めたわけではなかった。
そんなことの解決には到底なりえないが、
ことが荒立ったときにあなたは法的に護られますよ くらいの意味しかなかった。
結婚した女が夫以外の男と会わない保証など
どこにもないことくらい、当時のわたしも分かっていた。
だから、彼が本当に彼女と結婚する と言い出したときは、がっかりした。

そうはいっても、わたしとは離れているふたりだもの。
わたしの知らない紆余曲折を経て、結婚することになったのだろう。
わたしなりに納得して、快く彼の披露宴への招待を受けた。

しかし、どういうわけだか、私は披露宴に間に合わなかった。

わたしの何が狂ってしまったのかわからないけれども、
わたしの手帳に青い字でくっきりと書き込まれていた、1500の数字。
支度にずいぶんと手間をかけ、ゆっくりと招待状を裏返してみたら、そこには13時から、と
きれいな明朝体で印字されていた。

せっかくの招待を反古にしてしまったわたしは、電話で彼に丁寧に詫び、
その後のパーティに出席することにした。
夜景を見ながらの、テラスでのパーティだ。
彼は、美しくライトアップされたエントランスで新妻と並んで、嬉しそうにわたしを出迎えた。

新妻の、かわいらしい姿かたちは一瞬で忘れてしまったが、
そのときの彼の力強い握手は、一生忘れないだろう。


※テキストは、フィクションです。

 
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One Reply to “1500”

  1. smallcountry

    淡くて苦い昔の記憶が蘇りました。
    と同時に
    「男って単純というか、こういう思考回路に生まれたらそりゃ幸せだわ」
    なんてことも一緒に。^^

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