image #02 / キヲク

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Square format ( handcraft )   KODAK GOLD100

記憶に残っている過去は、いつも過大評価されている。
なぜなら、記憶に『書き込む』という、能動的な行為を経るからだ。

と、ここまで考えて、つまらぬ言葉の戯れに飽きたわたしはペンを置いた。
立ち込めるコーヒーの匂いで、気分が変わったのだ。
机の角に蝶がとまり、羽を少しだけ動かした。

ゆるく巻かれた紙に、横書きでびっしりと書き連ねられた「メモリー」。
紙はいったい何メートルあるのか、そんなことは見当もつかないくらい、その束はずっしりと重く、太い。
巻き方が不規則で、ところどころきっちり巻かれているかと思えば、膨らんだりもしている。

わたしは、紙をすこしほどいて、下の方の記述を探した。
大きな束なので、机に身を乗り出して。
どのあたりだろう?
2メートル…否、6メートル程度前?
勢いよく巻き上げられた紙はバランバランという音をたて、
机の上をのたうちまわり、驚いた蝶が飛び去っていった。

その年代を探し当てると、そこにはたくさんの注釈がついた一群の文章が見つかった。
注釈は、後の年代に何度か書き加えられ、そのたびに解釈が変わっていた。
古い解釈へは、二重線がつけられたり、矢印で別の項へと誘導してあったりした。

たとえば、今私が眺めている記述…
「努力…というより、徒労。かわいそうなあたし」 という注釈が最新なようだが、
それ以前に書かれたと思われる注釈は、「努力の甲斐あって…」と書いてある。
わたしは眼鏡をかけなおし、コーヒーをこぼさないように注意深くかがみこんで、その注釈をよみなおした。

わたしはすでに真っ黒に書き込まれたそこへ何かを書き足すべきか、考えた。
何かを判定するという仕事は、責任は重いものの、書き換え可能ならばそこそこ楽しい。
しかし、それよりもまだ白紙の部分へ何を書き込むかを考える方が楽しいと思った。

もう一度、紙を巻きなおす。
その束の重みゆえうまく巻ききれずに、束はまたゆるく膨らんでしまう。
ゆるんだ部分から、チラリとこぼれる一文。
それは、いつまでもわたしを苛む記憶。
少し垣間見ただけだが、それはそこから叫びをあげているかのようだ。

しかし、その項も、そしてその前の項も、後から書き加えた注釈は黒く活き活きとしているのに、
そのメモリー自身は色褪せている。

そこを覆い隠すことはせず、そのまま紙を巻いていく。
やがて、白紙が出てくる。
わたしはまた、ペンを握る。
蝶がまた、戻ってきた。


もちろん、フィクションです。
これも、過去記事『 image #01 / the old iron ship 』と同様に、イメージっぽいというか…
書いているときの思考回路が似ているっていう感じで、
自分の中では同じカテゴリーに属しているのです。

少し、書き換えました。というか、書き加えました。 2008.01.15.21:00

 

 
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