image #01 / the old iron ship
まだ動く船があるよ、と、老人は無愛想に言った。
僕は、見せてもらおうと奥を覗いた。
薄い素材でできた小型の船がいくつか、薄暗い倉庫に見えていたが、
それが実際どんな船であるかは、見ることができなかった。
もっと詳細に見ようとする僕を、老人は手で制して、あいつらは動かん、とそっけなく言った。
僕らは一端倉庫から出ると、裏手にある荒地へと踏み込んだ。
夜気が少々肌寒い。
荒地には僕の背丈くらいあるような草が生い茂っていて、歩いた跡からは草の匂いが立ち込めた。
そして、足元は露で濡れた。
数歩先を歩いていた老人が、立ち止まり、草のカーテンを手で押し広げた。
そして、顎をしゃくって奥を見せてくれた。
そこは少しだけ草が刈り込まれている風に見えた。
その奥に、うっそりと重たそうな鉄の船があった。
老人がつまらなそうに立っているこのあたりからコクピットまでの細い道と、
船の先頭部分が見渡せるくらいのスペースだけは、草がなく、どうやら歩けそうだ。
しかし、刈り込まれているように見えたのは、たまに人が通るのか、草が横へと伸びているだけだった。
それはつぎはぎだらけで、とても飛びそうにない、と思ったが、
こちらから訊ねるより先に老人が、古いが、あれしか飛べるんはない、と僕の顔を見ずに言った。
試しに乗り込もうと、老人の脇をすりぬけようとすると、彼は手を出している。
仕方なく、僕はカードを渡した。
彼は、古びた紐で首から下げたカードスロットを手に取ると、
愛想笑をするでもなく、黙ってカードをスロットへと通し、注意深くランプを確認した。
これで支払いが済んでしまった。
老人がこの作業をよどみなく済ませている間、草のカーテンの隙間からその船をちらちら覗き見した。
初めて見る形をしている。
胴体の割に翼が小さいような気がする。
古くて重そうだが、本当に飛ぶんだろうか。
カードを返してもらうと、この鉄の塊のための出費のことで、胃のあたりが重たくなった。
とにかく、これは自分のものだ。
僕は草に埋もれそうになりながら、船に近づき、その製造年が掘り込まれているあたりを覗き込んだ。
20世紀の船。
もっと新しくて頼りになる船を探していたが、もう2週間も船のために奔走している。
このあたりで限界なのかもしれない。
倉庫で、もっと新しくて身軽そうな船をいくつか見たことを、少しの後悔とともに思い出した。
あれはやっぱりみんな動かないんですか、と今一度老人に念押ししようと振り返ったら、
彼はもういなかった。
僕は、祈るような思いで埃っぽい計器の並んだコクピットへと乗り込んだ。
書きかけの小説みたいです。
なんというか、イメージだけです。