洞穴(ほらあな)
オレたちは世界を動かしているんだ。
石油系だったか金融関係だったか忘れたが、
10年ほど前に合コンで出会った男は、そんな誇大妄想にとり憑かれているとしか思えない、
めんどうくさい男だった。
わたしはそのとき、笑いはしなかったが、
興味の湧かないスポーツの話なんかと同じくらい退屈だった。
きっと、そんな顔をしていたのだろう。
その男とは二度と会うことはなかった。
さて、近頃、わたしは経済的な破綻を目の当たりにしている。
家計は火の車だ。
といっても、家計簿をつけているわけではないので、
実のところ、どの程度「火の車」なのかはわからないまま、
ただただ無理をしたり、喘いだりしているばかりだ。
わたし一人生きるには困らないという程度の収入はあり、とりあえず気楽に暮らしてはいるが、
高望みという言葉の意味を日々噛み締めている。
古びたアパートに、わたしと、老いた猫が一匹。
薄暗い部屋で、先月の光熱費の明細書を見て、ぼんやりしていた。
なにか節約術のようなものを覚えなければいけないかもしれない。
なにかをあらかじめ計算するとか、計画するということが苦手なのだ。
そうだ、あの男。
あの男は、今頃誰かと結婚しているだろうか。
あの合コンの後、どんな女とつきあったんだろうか。
あのときあの男は、わたしを変わった女か、つまらない女と思ったに違いない。
もっと美人が好きだったのかもしれないが、そういうことではなさそうだ。
あの誇大妄想に「そうね」「すごいね」と素直に言える女。
そういう女を探していたんだろうか。
その存在の有無は定かでないが、わたしはその手の女を内心馬鹿にしていた。
しかし、計算づくで軽薄、という昼のドラマにありがちな人物などではなく、
実際にはもっとハートのある、普通の女性なのだろう。
苦手なタイプはいても、中身のない人間など、たぶんいないのだ。
ふと、そんな風に思った。
あれから10年経って、名実共に世界を動かしているかもしれない男。
そして、その誇大妄想に素直に付き従った女は、今頃不便かもしれない海外生活に四苦八苦しながら、
あるいは、エアコンの効いた部屋で、秋がきても冬がきても薄着で過ごしながら。
着実に人生経験を積み、豊かに暮らしているのだろう。
そして今、私は洞穴(ほらあな)アパートにいる。
わたしは厚着をして、シュンシュンと湧いているお湯の蒸気を感じながら、
猫に筒型のセーターのようなものを編めば、暖房費を節約できるかもしれない、だなんて、
計画というよりただの思いつきを、頭の中でめぐらせている。
テキストは、フィクションです。
最近、書き物づいています。
これがおもしろいのかつまらないのか、よくわからないのですが、
推敲しているのが楽しいので、つい書いてしまいます。
写真でもなんでもそうですが、表現することにこだわると、
自分の限界が見えてつまらなくなってきませんか?
ただ撮るとか、ただ書くことが楽しければ、それだけで続けられるような気がします。
ま、頭の体操みたいなものかも。
お眼汚し、失礼いたしました。
写真から湧き出てくるストーリー、イマジネーションの世界。
好きですよ ^^ 撮った人が感じたことをより深く見ることが出来るような気がするの。
自分で決めたことだけど、取らなかった選択を取ったらどうなってただろう。。。
今日、まさにそんな話をしたばっかりだったのでビックリしました。
私たちが話したのはアインシュタインが言った「成功を目指すな。価値を目指せ」が意味することについてだったのですが、話が「取らなかった選択肢」についてへと変わっていって。
偶然ですね ^^