プラムの匂い

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ラジオから流れる、いつものコマーシャル。
有名企業の流すそれに、40代とおぼしき男性が、妻にかわされて肩を落とすシーンがある。
その瞬間、その男性は、ふっ と、息を漏らすような音をたて、妻のウィットに苦笑する。

本当に一瞬の間だけ聴こえてくる、声であって声ではないような音。
それが、Hさんにそっくりだ。と、台所に立つわたしは手を止めた。

瞬時にしてH氏を思い出したわたしは、胡瓜を紙のように薄く切りながら、
『あの頃』のことを夢想した。

夢見る価値のある過去を持つ、というのは、とても贅沢なことだ。

わたしは、最後の一切れをボウルに収めてしまうと、
きゅうりが2本なら小匙半分のお塩、 と、心の中でつぶやいた。
それは、おまじないのように覚えた、胡瓜の下ごしらえの分量だ。

そして、改めて、見知らぬ男の発する『音』とH氏の記憶が、
胡瓜酢のレシピの記憶と共にシナプス上で絡み合って、
同じ引き出しに放り込まれた感じがした。

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…ストン、と引き出しの閉まる音。

台所で熟させたプラムの匂いが、夕餉の前だというのに台所に充満している。
ひたすら甘美な、梅や桃にも似た芳香。
その匂いや外観に毒を感じさせないにもかかわらず、かじってみると酸っぱかった。

わたしの右脳の中の引き出しに、また何かが収まった音がした。


雑文におつきあいくださいまして、ありがとうございます。

※2枚目の写真は、PENTAX K100Dで撮影しました。

 

 
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2 Replies to “プラムの匂い”

  1. okiedokie

    文学的でいいですね~。
    一度でいいからプラムを極限まで食べてみたいです。
    あと、後ろに写ってるバット、うちと同じかしらん。
    ホーローって雑な私には不向きなんだけど何とか
    そうっと扱ってます(笑)
    そしてK100Dも使いこなせてる感が羨ましい。
    相変わらず「P」の鮮やかモードのみです(笑)

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