アミカケ
息を弾ませながら入ってきた彼女は、
薄くて硬いソファに勢いよく滑り込んできた。
ポケットに手を突っ込み、背中を丸めてソファにもたれる様子は、
まるで男子学生のようだ。
外の冷気で彼女の頬は紅潮し、ほんのりと煙草の匂いが漂ってくる。
小さな子供が2人もいる彼女は、
喫煙するときはいつも換気扇の前なの、と言っていたことを思い出し、
細身で背の高い彼女が、マッチ棒のように台所にたたずんで煙を吐いているところを想像した。
私はお湯でさっとすすいだだけのマグカップに、
小豆粉を溶いたようなざらざらとしたインスタントコーヒーを入れて飲んでいる。
おいしいのは、湯気とお湯の熱さだけ。
新しい板チョコを開けて2列ほど食べてしまってから、
散らかったテーブルに同じ箱をもうひとつ見つけた。
開けてみると、前に開けたものがあと一欠けらほど、
くしゃくしゃのアルミ箔に包まれて残っていた。
編んでいたレースは、作ろうとしたものを達成することよりも、
編む行為そのものが目的になってきていて、
何に使うでもなく針を動かすようになってきた。
そのため、編みかけのレースがいくつも部屋に散在している。
手がければ手がけた数だけ、仕上げなければ、と焦る。
でも。
誰が待っているわけでもないのよね。
形にならないことを、恐がらなくてもいいのかな。
※テキストはフィクションです。