雨待ち <Kの余韻>
あじさいは雨を待っている。
私たちが決定的に終わったのは、2月とか3月とか、その頃だった。
雨が降ったので、ふたりで部屋でビデオを見ていた日だろうか。
何を見ていたか、覚えていない。「2001年宇宙の旅」だったか。
話がこじれて、 もう帰った方がいいよ と言われ、とりあえず部屋を出た。
私の気持ちに反して雨は止んでいたが、行き着いた地下鉄のコンコースは、人気がなく、
灰緑がかったエクリュの、おかしな色で、ただ私を滅入らせた。
このままで終われないと思った私は、すぐにKに電話をした。
でも、それが仇となった。
この日の後、しばらくはこの電話さえしなければ、という思いでいっぱいだった。
そして何度も小さなグレーの電話を握った、あの瞬間を思い返していた。
Kは私を部屋に入れようとはせず、近くの公園まで出てきた。
たった一つの街灯が私たちを照らしていた。
その光が影をつくり、Kの表情はほとんど見ることができなかった。
私はフェイクファーのコートのポケットにしっかりと両手を入れて、Kの隣に座った。
そして、押し問答の末、私たちは決裂した。
お別れのキスをしようと、Kを覗き込んだら、Kは泣いていた。
どうして泣いていたのか、今でもわからない。
Kは気分屋だったので、なんだかそういうムードだったのかもしれない。
そして、少なからず私を期待させたのも、そのまっすぐな軌跡を描いていた涙だった。
使用カメラ;PENTAX MZ-5