ミルク色
Agfa PRO200-n,Printed in PHOTOLOVER.
あたしの、金色の縁取りのついた白いボウル。
両手にころんと収まる小ささなのに、くるんくるんと描かれた優美な縁取り。
何度も引っ越している内に、どこへか紛れ込んでしまった。
何度も恋人が代わり、めまぐるしく生活が変わっている間に、
煙のように消えてしまった、小さな陶土のかたまり。
何度目かの失敗に傷つき、戻ってきたホテル。
防音がすぐれているのか、耳に圧迫感があるほどのしずけさ。
沈黙の中、冷蔵庫の中を漁る。
ルームサービスの受付時間が終わっていたのだ。
あなたの写真ばかりを、フィルム2本分くらい撮った。
レジ袋から取り出した、あのチープな紙袋を無造作にベッドに投げ出す。
あたしのベッドは、あなたのポートレイトでいっぱいになる。
ワンルームにありがちなベージュの壁紙と、あなたの。
写真をぜんぶ床に払いのけて、そこに横たわると、
ミルク色の天井に金色のアームのついた、貴婦人のようなシャンデリアがかかっていた。
あたしの、あのボウルは、どこへいったのかな。
ベージュに濁っていくあたしの心に、ミルクをたらしたように、
ほの白いものが広がっていく。
写真は、全部は捨てなかった。
床に散らばったのを上から一瞥して、一番写りのいいのを手帳に仕舞い、
残りは部屋の屑入れへ捨てた。
※テキストはフィクションです。
※写真は、横浜異人館にて。(どの館だか忘れてしまった^_^;)